「心の花」の新刊歌集のページです。2002年刊行の歌集から制作中です。
(注 ふりがなは( )でくくってあります。歌は自薦5首です。)

2002年

黒岩剛仁・第1歌集 『天機(てんき)』2002年8月19日、ながらみ書房、2700円
 ・人はみな語りたくなき事ありて鳩死にている歩行者天国
 ・公園で夜の電話をかけおれば今きわやかに一本の恋
 ・降りる乗る満員電車の喧騒は祖国喪失者の存在理由(レーゾンデートル)
 ・駅そばによく名の変わるホテルありてひと月前の名思い出だせぬ
 ・未(いま)だ雨と呼ばれぬ時代の雨を恋うただ垂直に天降(あも)れる水を

大口玲子・第2歌集 『東北(とうほく)』2002年11月17日、雁書館、2800円
 ・せつなさをのぼりつめたる夜に聞く「鉄条網を切れ」と言ふ声
 ・人生に付箋をはさむやうに逢ひまた次に逢ふまでの草の葉
 ・死を言へば死の側に居ぬ我々の声まのびしてあかるむばかり
 ・肌脱ぎの樹木の力 今朝われは総雨量もてひと憎みをり
 ・蒼天に雲走りをり夏暁(なつあけ)は死ののちも鳥の声が聞きたし

小川真理子・第1歌集『母音梯形(トゥラぺーズ)』2002年11月30日、河出書房新社、1500円
 ・わが部屋へ君が来る夏、木々の名を記しただけの地図を渡さう
 ・オルゴールの蝶番外すがごとく君はわたしの唇に触る
 ・雨の名の乏しきフランスの雨よ、降るならばわが巡りに降れよ
 ・草枕 闇に眼鏡を探るときみづからの骨拾ふがごとし
 ・原石をひとりひとりに渡しゆく初日は[i](イ)といふ母音から

2003年

横山未来子・第2歌集『水をひらく手(みずをひらくて)』2003年1月9日、短歌研究社、2500円
 ・逢ひしことの温度を永く保たむととざせり耳をまなこを喉を
 ・今日を待ち張りつめてゐし胸ならむ魚跳ねて水のひかり割れたり
 ・「好きだつた」と聞きし小説を夜半に読むひとつまなざしをわが内に置き
 ・泣くことに力集めて泣きしのち噛みしめぬままもの食みてをり
 ・手探りに歩むに疲れここからは来るなとふ強きこゑも欲りゐつ

田中徹尾・第1歌集『人定(じんてい)』2003年11月16日、ながらみ書房、2500円
・送致後の慰労の言葉少なめに上司はわれに鬼ころし注ぐ
・かてを得るために詭弁を吐きし夜はさそり座の赤南天をはう
・とまりたるようで確かに動きいる観覧車に似る中年は秋
・くちを開けぼんやりとするひとときに気付く喜び湯船にもぐる
・いて鴨の凍てたるままに川に浮く川に浮くしかすべを知らねば

2004年

田中拓也・第2歌集 『直道(ひたちみち)』2004年11月15日、本阿弥書店、2400円
 ・しろがねの雨走り去り夕されば筑波は淡き霧纏いたり
 ・我は我の生を生きたし 垂直に降る東国の雨に打たれて
 ・みどりごを抱きたる浅き夢醒めて雪の香のする水を飲み干す
 ・海原の果てに生まるる群雲を父と見ており 父を見ており
 ・桂馬にはなれぬ一生の一瞬を貫く如き突風が吹く

 

2005年

大野道夫・第3歌集『春吾秋蝉(しゅんあしゅうせん)』2005年12月8日、願書館、2835円
・鋳造(つく)りし人の情熱の芯教室(どくぼう)に転がり足枷は錆を噴きたり
・蛇が玉子抱くようにして思い出の一つ一つがつぶれゆく音
・夏風邪に 腫れて 世界が 分速で 上りしビルが 崩るる 縦に
・図書館の段(きだ)を降りれば全集は崩るる才能の墓標のごとく
・閉園の鐘の音(ね)は鳴り東京へ二重に閉ざされてゆく麒麟たち

2006年

入野 裕江・第1歌集『遊楽(ゆうらく)』2006年4月25日、冬花社、2000円
・雲海に鉄溶ける如き日の昇り 生(い)ずる瞬間シャッターの連音
・頂上に立てば次なる山の峰わが眼前に魔の如く光(て)る
・石臼とコンピュータの同居する教室(へや)に学ぶも世紀の子らは
・ランドセルカバーの黄色くろずみて子らの笑顔に自信増しゆく
・「さよなら」の声にぎやかに響き合う昇降口を夕陽が飾る

黒岩剛仁・第2歌集『トリアージ』2006年7月7日、ながらみ書房、2500円
・猪を食いつつ飛び交う日向訛り坪谷の昼に牧水と飲む
・新幹線の窓より見ゆる道あまたその一つだに我は踏まざる
・自らが飛び降りんとする危うさに耐えつつ歩道橋を渡れり
・おぼろげな<未来>信じていたる頃川端康成自殺せし頃
・前を行く女の尻見て昇る階段人生もまたこんなものかと

谷岡亜紀・第3歌集『闇市(やみいち)』2006年8月15日、雁書館、2800円
・夕月は避雷針の上に昇りたり大恐慌の前の東京
・焼け焦げた香港ドルを差し出して思い出を買う男らばかり
・野良犬のおらぬ犬町犬捕りの男ばかりが過去をさまよう
・停電の大通りゆく人の群れ 風に吹かれて雨にぬれても
・空き缶を両手に捧げて人は唄う ここであそこで全ての場所で

2007年

横山未来子・第3歌集『花の線画(はなのせんが)』2007年4月8日、青磁社、2500円

・彫像の背を撫づるごとかなしみの輪郭のみをわれは知りしか
・白昼に覚めたる眼(まなこ)ひらきつつ舟の骨格を見わたすごとし
・やさしさを示し合ふことしかできぬ世ならむ壁に夕陽至りつ
・一日のなかば柘榴の黄葉のあかるさの辺に水飲み場みゆ
・わが生にひと度は来む天をあふぎ衣の胸を裂くほどの怒り